「デジタル加飾のトレンド&事例情報」総集編3/3:デジタル加飾のトレンドと今後の展望
2025-07-30 :デジタル加飾業界情報
いつも「デジタル加飾のトレンド&事例情報」をご覧いただき、誠にありがとうございます。
2020年7月にこのブログをスタートしてから、気づけば5年。全250回を超える記事を通じて、センサリー印刷やデジタル加飾の可能性を追い続けてまいりました。
本記事をもちまして、本ブログはひとつの区切りとして最終回を迎えます。これまでお付き合いくださった皆様に、心より御礼申し上げます。
最後に、デジタル加飾のこれまでの歩みを振り返り、これからの展望を共有させていただきます。
デジタル加飾-感性を響かせる印刷へ
デジタル加飾は、かつてのニッチな技術から、今日の印刷業界において中核事業の不可欠な要素へと急速に進化しています。2023年から2025年にかけて、デジタル加飾機の日常利用率は驚異的な400%増加し、市場は「アーリーアダプター」から「アーリーマジョリティ」の段階へと移行したことが示されています。
[ソース記事] デジタル加飾⾰命:2025 年の市場調査からの洞察とトレンド 2025-07-02
技術の進化と多様化
デジタル加飾の進化は目覚ましく、生産効率、品質、環境適合性を高める技術革新が次々と実現しています。
• ワンパス加飾の実現:
◦ Harris & Bruno ZRXは、従来困難とされてきたコート紙と非コート紙の両方へのシングルパス加飾を可能にしました。これにより、ラミネート工程が不要となり、時間と複雑さを大幅に削減し、環境負荷も低減します。
◦ MGI JETvarnish 3D Web CompactやJETvarnish 3D Web 400は、ロール紙上でUV部分ニスと箔押しを100%デジタルでワンパス処理し、生産性を高めています。JETvarnish 3D Web 400は、最大定格速度が25m/分から50m/分に向上しました。
• 統合型生産プラットフォーム:
◦ MGI AlphaJETは、「Factory 4.0」や「Industrie 5.0」のコンセプトに基づき、印刷から加飾、仕上げまでを単一プラットフォームでデジタル完結させる画期的なシステムです。これにより、生産効率が大幅に向上し、工程間の時間と複雑さが削減され、溶剤や廃棄物の削減にも貢献します。フランスのISRA社では、カード制作の5つの工程を1つに集約し、労働力削減に貢献した事例があります。
• 革新的なデジタルカッティング:
◦ MGI Octopus Webは、従来のレーザー技術に代わりブレードを搭載したマルチアームデジタルカッターとして登場しました。これにより、焼き付きや発煙なく、高品質な可変データ対応カッティングが可能となり、パンチングやクリース加工にも対応します。この技術は、ラベルの型を自由に可変できるため、ブランドが消費者の注目を集める新たな手段を提供します。
• AI(人工知能)による自動化と最適化:
◦ MGIのAIスマートスキャナー(AIS)は、印刷済みシート上でのニスや箔の見当精度を自動制御します。
◦ Taktiful Software Solutionsは、AIを活用した新しいソフトウェアスイートを発表しました。
[ソース記事] 米国タクティフル社、加飾印刷に特化した新ソフトウェア会社を設立。2024-04-18▪ 「Reaktor」は、クラウドベースのアートファイルビジュアライザーで、ユーザーは仮想3D環境でさまざまな加飾効果の校正や実験を行うことができます。

▪ 「Kreator」は、クラウドベースのジェネレーティブAIツールで、印刷用の加飾ファイルを迅速かつ効率的にデザインするクリエイティブプロセスを自動化します。
◦ AIと機械学習の統合は、ワークフローを自動化し、人間の介入を減らし、より複雑でカスタマイズされた高品質の出力を可能にすることで、印刷プロセスの自動化における次の飛躍となる可能性を秘めています。AIの出現は、クラウドコンピューティング、自動化、新しい仕事の創出に繋がり、印刷・グラフィックデザイン業界全体をより楽しくする可能性を秘めていると期待されています。
市場と用途の拡大
デジタル加飾は、その柔軟性、可変データ対応能力、そして物理的な製品の「触感」を強化する能力により、市場と用途を大きく広げています。
• 普及の急速な進展: 競合他社がデジタル加飾サービスを提供していると認識する印刷会社の割合は、2023年の28%から2025年には50%に急増しており、市場での急速な普及を裏付けています。ヨーロッパ企業では、デジタル加飾が競争力維持のための必需品と捉えられています。


• 小ロット・パーソナライゼーション:
◦ 金型が不要で可変データに対応できるため、小ロットの高級パッケージングやパーソナライズされたダイレクトメールに最適です。ダイレクトメールは、加飾品への郵便料金割引とレスポンス率の向上が牽引し、顕著な成長を見せています。
◦ 「バリアブルフォイル(可変箔)」は、パーソナライゼーションを可能にする「ゲームチェンジャー」として認識されています。
• 高級感の演出: 医薬品パッケージや限定版の高級バーボンボックスなど、小規模ブランドでも大手ブランドに匹敵する高級感を演出できるようになりました。NAPCO USA社は、硬い箱(リジッドボックス)を求める小規模ブランドの需要に応えるため、短納期のリジッドボックス製造プログラムを構築し、デジタル加飾を活用しています。
• 新たな製品価値の創造:

◦ 伝統文化との融合: 日本の伝統文化である御朱印に、デジタル加飾による箔押しや厚盛りニスを施す「センサリー御朱印」が採用され、その煌びやかさや触感が評価され、採用事例が着実に増加しています。
◦ 新感覚ラベル: カラフルで触感のある「多色エンボス箔」センサリーラベルが登場し、視覚と触覚に訴えかける新たな製品価値を生み出しています。これにより、従来の金・銀箔だけでなく、赤・青・緑・ピンクなど多様なメタリックカラーを使った人目を引く商品ラベルを低コストで提供可能になりました

◦ ゲーム・コレクターカード: ポケモンなどのブランドが牽引するゲームやコレクターカード分野でも、加飾が商品の魅力を高め、消費者のエンゲージメントを深める役割を担っています。
◦ 多様な印刷物への応用: 葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」に箔やニスで躍動感や遠近感を与える試み、クラフトビールのラベルにメタリックな質感を加える事例、アーティストのアート作品への加飾など、幅広い分野でデジタル加飾の応用が進んでいます。

• 触感マーケティングの重要性: 消費者が物理的な製品に触れることで購買意欲が高まる「触感マーケティング」は極めて重要であり、デジタル化が進む現代において、触覚技術は人間同士の交流に不可欠な触覚を再現し、デジタルとフィジカルのギャップを埋めることができます。
今後の需要拡大と展望
デジタル加飾の将来に対する期待は非常に高く、その成長は継続すると見られています。
• 将来に対する強い楽観性: 加飾設備への追加投資を計画している印刷会社は、2023年の54%から2025年には65%へと大幅に増加しており、デジタル加飾分野の将来に対する楽観的な見方は74%から88%へと急上昇しています。これは、印刷業界全体に対する一般的な楽観度を大きく上回る数字です。


• ROI(投資対効果)の具体化と販売戦略:
◦ 印刷会社は、デジタル加飾がブランド認知度向上、顧客エンゲージメント促進、知覚価値向上、ひいては売上向上にどのように貢献するか、そのROIを具体的に提示することが求められています。
◦ 販売においては、実際に加飾されたサンプルを顧客に提示し、視覚的・触覚的にそのインパクトを体験してもらうことが極めて効果的です。
◦ 印刷会社は単なる受注者ではなく、顧客のプロジェクトに早期に関与し、デザイン提案や技術的なアドバイスを行うソリューションプロバイダーとしての役割を果たすことが求められます。
◦ 営業担当者には、顧客のニーズを深く理解し、デジタル加飾の価値と効果を効果的に伝えるための販売トレーニングとマーケティングツールの活用が不可欠です。
• 標準用語の確立: 業界全体で標準用語の確立が進められており、これにより市場の混乱が軽減され、デジタル加飾の普及が加速すると期待されています。FSEA(米国箔&特殊効果協会)のデジタル・エンベリッシュメント・アライアンス(DEA)は、この標準化の目標を掲げ、デザイナーへの働きかけやブランド教育などを行っています。
• 持続可能性への貢献: デジタル加飾は、金型不要、溶剤や廃棄物の削減、ラミネート工程の省略など、環境負荷の低減に貢献する側面も持ち合わせています。これは、環境意識の高まりの中で、顧客への重要なアピールポイントとなります。
• 教育とトレーニングの重要性:
◦ デジタル加飾技術を最大限に活用し、収益へと繋げるためには、オペレーターやデザイナーへの継続的な教育とトレーニングが不可欠です。
◦ Taktiful Software Solutionsが提供する「Taktical Training」は、印刷会社がデジタル加飾機の能力を最大限に引き出し、ワークフローを最適化し、加飾された製品を自信を持ってクライアントに販売できるよう支援する実践的な教育プログラムです。


デジタル加飾は、単なる装飾に留まらず、ブランド差別化、顧客体験向上、持続可能性への貢献といった多角的な価値を提供する技術として、競争が激化する未来の印刷市場において、成功を収めるための重要な鍵となるでしょう。
最後に──これからも加飾は進化し続ける
この5年間で、デジタル加飾は“技術”から“体験”へと重心を移し、「人の心を動かす印刷」へと成長しました。
そしてその進化は、これからも止まることはありません。
印刷は、単に情報を伝える手段ではなく、感性や感情をつなぐメディアへと変わりつつあります。
このブログが、そんな時代を感じ取る一助となっていたなら幸いです。
これまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
デジタル加飾の未来が、皆様のものづくりの中でより豊かに活かされていくことを、心から願っております。

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