デジタル加飾はどこにフィットし、どこへ向かうのか?
2022-08-25 :デジタル加飾トレンド情報(2021年PostPress誌記事引用)
業界のエキスパートがデジタル加飾の利点・可能性とその限界について語ります。
印刷の加飾技術が進化を続ける中、特定のプロセスの利点と限界を理解することは重要です。米国の箔&特殊効果協会(FSEA)のエグゼクティブ・ディレクターであるジェフ・ピーターソン氏は、コーティング、箔押し、加飾のためのデジタル技術に関する最新の見識を得るために、3人の業界経営者と会談しました。
デジタル加飾の用途
デジタル加飾に関しては、デジタル部分ニスコーティングやデジタル厚盛ニスコーティング、デジタル箔を使う方が適しているアプリケーションもあります。Print Panther社の社長であるクリスティーン・ヤードリー氏は、これらのデジタル加飾技術はあらゆるものに適応できるものの、ややニッチな市場である小ロットパッケージが理想的なアプリケーションです、と言っています。「小ロットのパッケージ、カード、パンフレット、そしてマーケティング資料やダイレクトメールなどが最適だと思います」と述べています。ヤードリー氏によると、現在、加飾や保護コーティングは非常に人気があるとのことです。「最近では、小ロットのパッケージで、何らかの厚盛ニスコーティングや箔押しをしていないものはあまり見かけません」と彼女は言っています。
Duplo USAのマーケティング担当副社長であるリック・サリナス氏は、書籍業界や消費財メーカーが初めての顧客をターゲットにする際に、デジタル加飾に大きな関心を寄せていることを指摘しています。「書店に行くと、書籍にはエンボス、デボス、ソフトタッチ、箔などの加飾が使われていることに気づくと思います。中には芸術品のような表紙もあります。これらはブランド認知がない中でも、加飾を使って少しでも優位に立とうと、誰かに本を手にとってもらうという課題に取り組んでいるのです」 と。
他の消費財のブランディングも同様です。「初回顧客とのエンゲージメントを構築する際に加飾は絶大な人気があります」と説明しています。「つまり、ブランドが認知されていないときに、生産者が人々を惹きつけようとする場合です」。サリナス氏は、メインブランドが存在しないマリファナ製剤業界の例を挙げ、マリファナ製剤業界にマルボロは存在しない、と言っています。「人々が薬局に足を踏み入れると、ただ壁一面に商品が並んでいるのを目にします。売り手は、人々を魅了する何かを持たなければなりません。そのために、箔やソフトタッチ、起毛コーティングを使うのです」。
KURZ USAのパッケージング・印刷営業部長であるマイロン・ワーナー氏は、写真カードや招待状、中小企業のマーケティング資料などのオンライン印刷業者がデジタル加飾を熱心に採用しているのを目の当たりにしてきました。「これらの技術は、多くの人が得意としている分野です」とワーナーは述べています。「デジタル箔やスポットコーティングの利点である、迅速な市場投入、切り替え時間なし、可変データは、継続的に変化する仕事や小ロットのパッケージを必要とするブランドにとって最適です 」と述べています。
デジタル加飾と従来加飾の比較
Print Panther社において、ヤードリー氏はデジタルと従来の加飾を選択するための簡単な基準を持っています。「まず、印刷の分量です。超ロングランなら、デジタルは向いていないと思います。それと、サイズの制限もあります」。
また、印刷する画像の複雑さも判断材料になるといいます。「超複雑なものであれば、従来の箔押しの方が良い結果が得られることもあります」。
また、彼女のチェックリストには、基材とストックの厚みがあります。「厚みのある素材や質感のある素材は、従来の箔押し加工が適しています。また、ストックの厚みも重要で、私のデジタル機材では許容できる厚みに制限がある場合もあります」。
サリナス氏は、厳密なチェックリストは提供しませんでしたが、精巧で多段階のデジタル技術が目を見張るような結果を生み出し、業界では実際に実験的な動きが見られると述べています。サリナス氏は、デジタルか従来技術かを判断する基準として、数量、印刷するデータが可変かどうか、予算が厳しいかどうかという3点を挙げました。歯磨き粉のような日用品はパッケージングに低い価格帯が要求されますが、製品の販売価格が十分に高い場合は、パッケージング費用が妥当であるだけでなく、凝った際立った製品となるようすることが必要な場合もあると、ピーターソン氏は述べています。
KURZ社のワーナー氏にとって、デジタル加飾を行うかどうかを決定する際に、基材と印刷工程は検討すべき重要な要素です。「世の中にはさまざまなデジタル技術や機器があります。基材と印刷工程を知ることで、その仕事にデジタルが適しているかどうか、大きな違いが生まれます。例えば、KURZ社ではトナーベースのシステムでドライストックを効果的に扱うことができますが、インクジェットシステムでドライストックを扱うのは困難な場合があります。デジタルと従来の処理方法のどちらを選択するかは、機器と基材の相性が重要なのです」。
デジタルコーティングと箔のメリット
加飾技術としてのデジタルコーティングと箔の大きな利点について、Duplo社のサリナス氏は、迅速な納期と限られたオペレータの介入を指摘しています。「特に自動化されたワークフローを使用している場合、多くの場合、製品がショップに到着してから数分以内に生産することができます」と彼は述べています。
例えば、同社のスポットUVコーターとEFI社のジョブフローとの連携について、次のように説明しました。「印刷機に送られたジョブファイルから、5色目のカラーファイル(ポリマー用)を取り出し、そのカラーファイルはそのまま私たちの機械に送られます。そのため、デジタル印刷機から材料が出るとすぐに私たちの機械に入り、デジタルスポットレイヤーの指示が書かれたバーコードを読み取ることができるのです。ユーザーの介入は一切ありません。これこそが、デジタルの利点です」。
ワーナー氏は、サリナス氏の意見に賛同し、デジタルファイルの利点について、従来の技術にはない柔軟性があると指摘しました。「デジタルファイルなら、金型がないので、金型を注文する必要もなく、金型を作る必要もなく、金型代もかかりません。これにより、市場投入までの時間が短縮され、非常にハイエンドな仕事も、非常に少量の生産も可能になります」。
サリナス氏は、「1枚から製作可能であり、従来の手法ではできない多くのイノベーションをデジタルフォーマットで実現できる」と指摘します。また、場合によっては、まず箔を貼り、その上から4色のデジタル処理を始めることも可能で、新たなデザインの創造性を発揮することができます。
デジタル加飾の限界
どのようなテクノロジーにも言えることですが、デジタル処理には限界があり、購入希望者は踏み込む前にこれを知っておく必要があります。ワーナー氏は、どのような新しい技術が望まれているのかを明確にした上で、各セットアップの能力と限界を含め、機器の種類を十分に理解することが重要であると述べています。
「デジタル箔技術は、仕上げ技術としてだけでなく、印刷前のプロセスとして組み込むことができ、お客様はオーバープリントによって独自のメタリックカラーやユニークなデザインを作成することができます」と説明します。また、ポリマーベースの接着剤と箔押し技術を使ったデジタル加飾技術や、よりコールドフォイル的な手法で転写する技術も市場に出てきています。このように、さまざまな技術と最適な基材を理解することで、後加工業者はプリプレス(印刷前)タイプの加飾とポストプレス(印刷後)タイプの加飾のいずれかを選択することができます。
ワーナー氏は、すべてのプロセスや装置には何らかの制限があるが、その制限は装置や技術によって異なることを強調しました。「どのような種類の加飾で何ができるかを理解することが重要です。そして、そのプロセスや装置に対してどのような種類の消耗品が必要になるかを理解することが重要です」。
ヤードリー氏は、デジタルプロセスの限界について、改めて考えを述べました。「新しい機械でスピードアップしているので、印刷の長さはそれほど問題ではありません」と彼女は説明します。ヤードリー氏は、非常に複雑な箔のデザインであれば、通常、より伝統的な箔押し方法が最適であると指摘しました。名刺はギロチンで切ればいいというものではありません。仕上げは非常に重要で、デジタルではもう伝統的な方法では仕上げられないのです 」と語っています。
サリナス氏は、デジタル化のこの側面も強調しました。「あなたは今、美しい厚盛UVカバーやエンボスの束を作成したところです」と彼は言います。「ところがどうでしょう。シートの右側にUV加工が施され、左側には加工が施されていない紙束を手に取り、ギロチンカッターでダメージなく断裁することは容易ではありません」。
Texas Bindery社は、Duploの厚盛UVコーターとラミネーター/箔押し機を使用して、この小ロットのKratomラベルを作成しました。
サリナス氏は、そのような仕事をダメージなく仕上げることができる、彼の会社のスリッターカッター・クリーザーの人気が高まっていることを実感しています。
留意点
ヤードリー氏は、デジタル機器には一定レベルのスキル、特にプリプレスとファイル取り扱いのスキルが必要であることを購入希望者は知っておく必要があると指摘しています。また、デジタル機器には環境要件があるといいます。「なぜなら、デジタル箔やニスがうまく機能するためには、環境が非常にクリーンで、完璧にコントロールされていなければならないからです。印刷工場の真ん中にデジタルインクジェットの加飾機を置いておくことはできないんです」。
サリナス氏は、潜在的な投資家に対して、加飾のプロセスだけに注目するのではなく、デジタル選択のワークフロー全体を考慮するようアドバイスしました。「ワークフローを理解することが先決です」。そしてこの加飾機を加えることで何を実現しようとしているのか明確にすべきです。スポットUVから始めるのが良いのか?箔押しから始めるべきか?箔であればホットフォイルなのか、コールドフォイルなのか?厚盛のスポットUVニスはインラインで行うか?また、サリナス氏はヤードリー氏同様、オペレーターのスキルを強調しました。「展示会では簡単そうに見えますが、この種の装置には大きな学習曲線が必要です」と。
ワーナー氏のアドバイスは、ヤードリー氏やサリナス氏のアドバイスと同じでした。そして、新しい機械ではオペレーターのスキルと優れたワークフローが非常に重要であることを理解しておくことが必要だと言っています。「1回の処理で何ができるのか、あるいは何回の処理が必要なのかを理解することが重要です」と彼は言います。「もし、これらの装置を導入して、本当にエキゾチックで美しい作品を1パスで加工し、すべて自動化しようと考えているなら、その機械の能力と消耗品を理解し、プロセス全体が効果的に機能するよう確認する必要があります」。
デジタル加飾の市場
ヤードリー氏は、デジタル加飾の市場が熟してきていると感じています。「今日、何らかの付加価値や加飾のない印刷物を求める人はほとんどいません。私のクライアントは不動産から製薬まで多岐にわたりますが、特に今回のCOVID-19のような事態を受け、マーケティング資料にさらなるパンチを加えたいと考えている人がほとんどです」。
ヤードリー氏は、自分の強み・専門性を真の付加価値を提供できることと捉えています。「私は加飾を売る必要はありませんが、制限を売る(伝える)必要があります 」と彼女は言っています。「それは、クライアントを教育し、適切なアドバイスをすることです。彼らは、ロゴを箔押ししたいと思うかもしれませんが、完全に考え抜いたわけではないのです」。ヤードリー氏は、適切なアドバイスをすることが、クライアントを囲い込むもう一つの方法だと考えています。「カラーを完璧にし、箔を施し、見た目を良くして、顧客の望むようなマーケティング資料を作れば、顧客はあなたに取り込まれたと同然で、あなたのところに戻ってきます。彼らは、通りを歩いてオンラインのプリンターに注文すれば、欲しいものが手に入るというわけではありません。あなたのところに来るしかないのです。あなたが特別な価値を与えてくれるからです」。
サリナス氏は2つの提言をしています。効果的なデザインを推奨することと、クライアントに選択肢を示すことです。「人は時に、less is more少ないことがより効果が大きいことを理解するのに少し時間がかかります。人は装飾に夢中になり、それをやりすぎて効果を失いそうになるものです。そのバランスを学ぶことが重要なのです」。
逆に、顧客が加飾を見送った後でも、選択肢を示すことは非常に有効で、サリナス氏はこれを実際に見てきました。「デジタル加飾を導入したクライアントが、顧客に加飾について話し、“それは自分たちがやりたいことではない”と判断された場合、デジタル加飾がその威力を発揮するのです。デジタルで簡単にできるので、納品時には、どんな風に見えるかを示すために、加飾を施したサンプルも顧客に一緒に送ります。5〜6割のお客さまは、次にその仕事が来たときに、その装飾がとても気に入ったということで、その装飾を選ぶのです」と、彼は言っています。
ワーナー氏もこの点、心から同意しました。「印刷物の広告を出して、ターゲット顧客に何をやっているのかを伝えるのは難しいことです。手に取って見て、触って、感じてもらわなければならないのです」。ワーナー氏は、ソーシャル・ディスタンスによって人々が離れてしまう現在、バーチャルな環境で活動することの難しさを認識しています。「今後、電子的に作品をより効果的に見せる方法を検討しなければならないでしょう。しかし、この質問に対する最もシンプルな答えは、サンプルを見せて、触って感じてもらうことです。センサリー印刷では印刷物が自分自身を売っているのです」。
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